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毒入りブルーベリー

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世界蜃気楼絵巻

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京都在住の作家pene氏が展覧会場で即興の物語を書いてくださいました
彼のサイトはこちら http://www.geocities.jp/sorasidolemifaso/
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世界蜃気楼絵巻
抄録2

「いや
君の言っていることはおおよそのところ理解できるんだ
けれどだね・・・」

兎はそう言って
パイプをくわえると深く吸い込み
それから煙を吐き出して

「でも君が傘を差すことの直接的理由にはならないじゃないか」

そう言って
また一息吸い込んだ

燕尾服に蝶ネクタイ姿のこの兎は
ジェントルヘアー(紳士兎)と呼ばれている

「だからさ
僕が知りたいのは端的な理由なのさ
君が晴れている日にどうして傘を差さなければならないのか」

兎のはすかいで羊顔はだまったままうつむいて座っていた
羊顔は重たい口を開く

「さっきから言っている通りだよ
僕はこれ以上風邪をこじらせたくはないんだ」

羊顔は再び沈黙した

「それは分かるんだ
分かるんだけれどね
それは雨の場合だろ?
雨に濡れたら風邪は悪化するそれは理解できる
けれど君は晴れている日にも傘を差すという
僕にはこれがさっぱり分からない」

兎はため息混じりの煙を吐き出し
羊顔が小さく言った

「雨が降るのは外だけとは限らない」

「それは
つまりどういうことなんだい?」

「雨は内にだって降るということだよ」

兎はパイプに葉を詰め直した
お気に入りの早摘みの木いちごの葉
静かな部屋に
パイプをトントンとやる音が響く

「ますます分からないな」

「雨はいつだって降っているんだ」

兎は窓の外を見やった

「今日は晴れているように僕の目には映っているんだけれどね」

「目に見えるはずがないさ
雨が降っているのは僕の心の内なんだから」

羊頭は頭を抱えた

雨を降らす雲が羊顔の表情に漂う
決して晴れることのない
濃く暗い雲

兎の目の前に暗雲が立ちこめている
目には見えない雲
見えるのは兎の吐き出した煙だけ

兎は立ち上がり窓を開けて空気を入れ替える

「根本的な話をしようじゃないか
そもそもどうして君の心に雨が降っているのか
風邪をひいたのもそれが原因なんだろ?」

兎は羊顔に救いの眼差しを送ったけれど
「それは言いたくはないんだ」
と言ったきり
羊顔はまた黙り込んでしまった
兎はそれを見て
首を横に二度三度振った

「一言言わせてもらうなら
君の言う雨っていうのは物理的なものじゃない
だから傘を差したって雨を防ぐことなんてできやしないのさ
目に見えない傘を使わない限りはね」

羊は何も言わなかった
どうやら兎ももう諦めてしまったようだ

「僕ではどうすることもできないんだね」

「残念ながらそうなんだ」

二人の様子をずっと見守っていた
シャム双生児が
おもむろに口を開いた

「僕らはさ」
「僕らはね」

「向き合うことを知らないよね」
「向き合うことを知らないね」

「お互いの顔もさ」
「お互いの顔も」

「それから歩みよることも」
「ふふ 歩みよることね」

「君たちと同じように」
「君たちと同じさ」
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by yanomichiru | 2006-06-03 14:04 | 新作/展覧会情報
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